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東京地方裁判所 平成7年(ワ)7167号 判決 1995年12月27日

原告

平子惣一郎

ほか一名

被告

小坂英雄

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告平子惣一郎に対し、金三四三六万五〇二五円及びこれに対する平成六年一一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、各自、原告平子増子に対し、金三三〇六万五〇二五円及びこれに対する平成六年一一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  原告平子惣一郎(以下「原告惣一郎」という。)

被告らは、各自、原告惣一郎に対し、金三六五八万五〇二六円及びこれに対する平成六年一一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告平子増子(以下「原告増子」という。)

被告らは、各自、原告増子に対し、金三五二六万五〇二五円及びこれに対する平成六年一一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実及び証拠上優に認定できる事実

1  本件事故の発生

(一) 事故日時 平成六年一一月九日午後九時四分ころ

(二) 事故現場 東京都東大和市多摩湖一丁目四番先路上(多摩湖外周道路、以下「本件道路」という。)

(三) 被告車 自家用小型自動車(所沢五八ぬ八二三八)

運転者 被告小坂英忠(以下「被告英忠」という。)

所有車 被告小坂英雄(以下「被告英雄」という。)

(四) 事故態様 被告英忠が、訴外亡平子尚美(以下「訴外尚美」という。)を助手席に同乗させ、被告車を運転中、本件現場付近のS字カーブを高速で走行したため、ハンドル操作を過つて右路外に被告車を逸走させ、同所に設置してあるガードレールに被告車を衝突させて横転させ、訴外尚美に頸髄損傷、左肺損傷、頸部圧挫傷等の傷害をおわせ、訴外尚美は、同日、右傷害により、死亡した。

2  責任原因

被告英雄は、被告車を所有し、運行の用に供させていたものであり、被告英忠は、被告車を保有して運行の用に供していたものであるから、いずれも自動車損害賠償保障法三条により、原告らに生じた損害を賠償する義務がある。

3  相続

原告らは、訴外尚美の両親であり、唯一の相続人であるから、各二分の一ずつ、訴外尚美の損害賠償請求権を相続した。

二  争点

被告らは、「被告英忠と訴外尚美は、二年二か月ほどの間交際しており、被告車を使用してドライブに出かけたことも何度もあり、被告英忠が訴外尚美を原告方に送ることもしばしばであつた。本件当日も、被告車を使用して本件事故現場付近までドライブに出かけたが、本件事故現場である多摩湖外周道路は、林の中を左右に曲がりくねつた道路であり、その様な道路状況の中、速度を出して運転を楽しむことの多い場所であつた。訴外尚美も、被告英忠と共に、同様の楽しみを意図していたと認められ、このような経過に鑑みると、訴外尚美の損害額の算定に際しては、好意同乗者としてその減額をすべきである。」と主張している。

第三争点に対する判断

前記争いのない事実の外、甲一五、乙一ないし六、原告惣一郎本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、訴外尚美はアルバイト先で被告英忠と知り合い、交際中であつたこと、これまでにも訴外尚美は被告英忠の運転で被告車に同乗して、ドライブに出かけていたこと、本件当日も、訴外尚美は、被告英忠と食事をした後、被告車の助手席に乗車し、被告英忠の運転で本件事故現場に至つたこと、本件事故現場は、多摩湖外周道路上にあり、道路は曲がり、制限速度は時速三〇キロメートルであるが、スピードを出して運転を楽しむ人の多い場所であること、被告英忠は、本件事故現場付近を走行中、前方を走行中の車両と競争の様な形になつて時速七〇キロメートルを超える高速で走行し、前方の車両に追いつこうとさらに加速したところ、右カーブとなつている本件事故現場付近で、被告車を左側に横滑りさせて被告車左後輪を道路左側縁石に接触させ、さらに、被告車を右方に逸走させて道路右側の縁石を乗り越えさせてガードレールの支柱に衝突させ、訴外尚美を死亡させたことが認められる。

以上の事実によれば、訴外尚美は、無償で被告英忠の運転する被告車に自発的に乗車し、その結果本件事故に遭つたことが認められるが、訴外尚美が、本件事故に繋がるような無謀な運転を誘発したり、容認するなど、訴外尚美に帰責事由は認められないので、本件では、好意同乗者として損害額を減殺することは相当でない。

第四損害額の算定

一  訴外尚美の損害

1  逸失利益 四〇一三万〇〇五一円

甲五の一ないし三、六の一及び二、七の一及び二、八の一ないし三、九の一ないし一一、一〇、一一の一及び二、一二、一五、原告惣一郎本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、訴外尚美は、本件事故当時、所沢商業高校三年在学中の一八歳の女子であつたが、平成七年三月に同高校を卒業する見込みであり、卒業後は、西京信用金庫に就職することが内定していたことが認められる。これによれば、訴外尚美は、一八歳から六七歳にいたるまでの間、原告らの主張のとおり、賃金センサス平成五年第一巻第一表女子労働者学歴計一八歳の収入三一五万五三〇〇円を下らない収入を得ることができたものと推認するのが合理的である。したがつて、訴外尚美の逸失利益は、三一五万五三〇〇円に、生活費を三〇パーセント控除し、一八歳から六七歳まで四九年間のライプニツツ係数一八・一六九を乗じた額である金四〇一三万〇〇五一円と認められる。

315万5300円×0.7×18.169=4013万0051円

2  慰謝料 一六〇〇万円

(一)(1) 本件において慰謝料を算定するに際し、被告らは、被告英忠は、搭乗者傷害保険に加入しており、未だ原告らには搭乗者傷害保険を支払われてはいないものの、原告らが請求すれば、一三〇〇万円の搭乗者傷害保険が支払われるのであるから、慰謝料の算定に際しては搭乗者傷害保険に加入している事実を斟酌し、慰謝料を減額すべきであると主張している。

(2) 乙七、八、原告惣一郎本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被告英忠が訴外大東京火災海上保険株式会社との間に自家用自動車総合保険契約を締結していること、右保険契約中に搭乗者傷害保険条項が定められており、原告らが請求すれば、一〇〇〇万円の搭乗者傷害保険金が原告らに支払われること、原告らは被告らに対する被害感情が和らいでいないため、搭乗者傷害保険金の請求を行つておらず、未だ、原告らは搭乗者傷害保険金を受領していないことが認められる。

ところで、加害者側の負担で搭乗者傷害保険契約が締結されている場合に、被害者らが搭乗者傷害保険金を受領したときは、被害者らが搭乗者傷害保険金を受領した事実を慰謝料の算定に際し斟酌することができると解されるが、これは、搭乗者傷害保険金が被害者らに対しては見舞金的性格を有し、搭乗者傷害保険金が交付され、被害者らがこれを受領したことで、被害者の精神的苦痛が一部でも償われたためであると考えられる。したがつて、搭乗者傷害保険契約が締結されているものの、未だ被害者側が搭乗者傷害保険金を受領していない場合には、搭乗者傷害保険金が見舞金的性格を有する金員として被害者側のに交付されておらず、被害者側の精神的苦痛が償われたとは認められないのであるから、これを慰謝料の減額事由として斟酌することは相当ではない。

本件では、被害者の遺族である原告らは、加害者である被告らに対する被害感情が和らいでおらず、搭乗者傷害保険金を受領していないのであるから、搭乗者傷害保険に加入している事実自体を慰謝料の算定に際し、斟酌することは相当ではない。

(二) そこで、本件における訴外尚美の慰謝料の額であるが、本件の事故態様、被告英忠との関係等本件事故に至つた経過、訴外尚美の年齢、生活環境、その他、証拠上認められる諸事情に鑑みると、その慰謝料は一六〇〇万円が相当であると認められる。

3  合計 五六一三万〇〇五一円

4  相続 二八〇六万五〇二五円

原告ら各人の損害額は、二分の一ずつの各二八〇六万五〇二五円となる(一円未満切り捨て。以下同じ)。

二  原告ら固有の損害

1  原告惣一郎

(一) 葬儀費用 一二〇万円

甲二、三の一及び二、四並びに原告惣一郎本人尋問の結果によれば、原告惣一郎は、葬儀費用等として一四四万六四〇〇円を支出していることが認められるが、このうち本件と因果関係の認められるのは、一二〇万円と認められる。

(二) 慰謝料 二〇〇万円

証拠上認められる諸事情に鑑みると、本件における原告惣一郎固有の慰謝料は、二〇〇万円が相当であると認められる。

2  原告増子

証拠上認められる諸事情に鑑みると、本件における原告増子固有の慰謝料は、二〇〇万円が相当であると認められる。

三  原告らの損害額

1  原告惣一郎

(一) 損害合計 三一二六万五〇二五円

(二) 弁護士費用 三一〇万円

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、原告惣一郎については金三一〇万円と認められる。

(三) 合計 三四三六万五〇二五円

2  原告増子

(一) 損害合計 三〇〇六万五〇二五円

(二) 弁護士費用 三〇〇万円

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、原告増子については金三〇〇万円と認められる。

(三) 合計 三三〇六万五〇二五円

第五結論

以上のとおり、原告惣一郎の請求は、被告らに対し各自金三四三六万五〇二五円及びこれらに対する本件事故の日である平成六年一一月九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の、原告増子の請求は、被告らに対し各自金三三〇六万五〇二五円及びこれらに対する本件事故の日である平成六年一一月九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の、各支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 堺充廣)

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